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到着ロビーに着くと、スーツケースを引いているビジネスマンが数人いただけだった。
「まだ到着していないのかな…」
到着ロビー付近の待ち合い席から、一人の男性が立ってこちらに向かって来るのを、母が気づく。
「やだぁ。っまっ。かっこよくなっちゃって、一瞬誰かと思っちゃった。」
嬉しそうに母が近寄る。
背の高いすらりとした男性は20代前半に見え、きれいな顔立ちをした、いわゆるイケメンだった。
顔が赤くなるのが自分でもわかる。一瞬にして緊張する。「こんにちわ」と言わなくてはいけないのはわかるけど、多分おかしな声しかでない。
「いつこっちに帰ってきたの?すっごい忙しいとは聞いてるけどぉ。ますます男前になっちゃって。」
母は楽しそうに話しかける。
それに対して彼は、うん、まあ。と笑みを含めて短く返す。
「親父たちの飛行機、定刻通りに着いたんだけど、まだ中で荷物のピックアップ待ちだって、さっき電話してきたから、もう少し待っててください。」
南衣はちらりと、すぐ横の自動ドアを見る。曇りガラスの自動ドアの向こうに見えるものは何もないんだけど。
そしてまた彼を見る。
「南衣、隆治くん覚えてないでしょ?」
何か言いなさい、と言うように母がつつく。
「うん…」
また、顔が赤くなる。緊張する。
"隆治くん"は、笑みを見せたままあたしを見てる。
何も考えられない。
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