だれかが落としたもの

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「――円です」  一瞬聞き間違いかと思い、その場で固まってしまう青年。それをよく聞こえなかったからと勘違いしたのか、店長はもう一度金額を口にした。  缶ジュースより安い値段に青年は複雑な気分になった。歓喜と落胆。相反する感情を同時に抱くなど滅多にない経験である。 「ずいぶん安いんですね」  料金を支払いながら、青年は皮肉交じりに伝えた。 「そこはジャンク品なため、すべてサイフに優しい良心的な価格設定にしています。おまけに単位の場合、希少価値がぜんぜんありませんから。さらに安いんですよ」 「それはないでしょう。大学生からすれば、のどから手が出るほど欲しいはずなのに」 「ですが、考えてもみてください。大学側はすでにお客さまが単位を落とした事実を知っているはず。今さら落とした単位を持っていっても無駄じゃないですか」 「………………どうにかなりませんか?」 「なりませんねえ。もう閉店時間ですし。それに、話も落としてしまったので」  懇願する青年に、役に立たなくなった紙切れを渡し、店長は静かに店じまいを知らせた。
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