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血に飢えているだけだったあの頃には、持ち合わせなかった感情。
それはとても甘美で。
ひっそりと冷やかで。
背筋がゾクゾクする。
貴女は俺の欲する全てを持った、愛しいひと。
「……寝ちゃってた」
彼女が目を覚ましたしばらく経った後だった。
「おはようございます。気分はどう?」
「うん。結構すっきりした。私どれくらい寝てた?」
彼女が起き上がると、柔らかで長い髪がするすると落ちて首筋と肩の素肌を隠す。
「ほんの15分だよ。帰りましょう。廊下に出ているから着替えて」
手帳を閉じて立ち上がると、
「分かった」
と、彼女も衣装の靴を脱いで続いた。
「……あ、朝霧さん」
「何ですか」
ドアノブを回した所で呼ばれ、振り返る。
「起きるまで待っててくれて、ありがとう」
と、笑顔で礼を言う彼女に俺はこう返した。
「俺は貴女のマネージャーですから」
もう味わえないけど、一番美しい形で側に置いておきたいんだ。
キミは何も知らないまま、ね。
end & never end.
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