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だが触れる直前で、俺の心身の有りとあらゆるものに取り付けた見えない枷が、俺を制限する。
抵抗はしない。
この先は、踏み出さない。
何故なら、愛する彼女を手に入れると、もう一つ俺が愛して止まないものを失ってしまうから。
──それは、彼女の天使の歌声。
先天性の俺とは違い、吸血されて後天的にヴァンパイアになると、その人間は永遠の命と引き換えに声を失ってしまう。
まだこうして、味をしめた本能はカノンの血を欲しがるが、俺はカノンから、その歌声を奪う事は出来ない。
仲間がこれを知れば、皆俺を不甲斐ないと言うだろう。
でも、カノンの歌声が俺を救ってくれたから。
その声に悔しい位に惚れているから。
だからこの身が朽ちても、彼女だけは彼女のまま守ると誓った。
そう、同族を殺しても。
蛍光灯の白い明かりの下、こうして隣に居られる幸せ。
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