0章

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人に不安を与える言葉を紡ぐ魔女。 危害を加えるなら討伐できるのだが……不安を与えたと言っても罪にはならない。 現に魔女は言ったのだ。『ご注意申し上げただけよ』と。 例えば……新婚の婦人に耳打ちした。 『男は他に目移りするものよ。でもそれこそ男だわ』 ……魔女は婦人の心に一滴の墨汁をさした。婦人にはそれをはね除ける愛がある。 しかし、魔女は言うのだ。 『ええ、貴女の愛は本物ね。じゃあまやかしでも見せて上げるわ。貴女の愛が本物なら良いでしょ?』 魔女はニタリと笑う。婦人は小さく頷く。 婦人に見せる夫の不貞。それがまやかしであっても見てしまったものを記憶からは消せない。 『よくよく気をつけてね。私は"貴女を思って言ったのよ"』 魔女が人々の心に不穏の一滴をさす。それはセシウス国に広がっていった。 .
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