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数日後の夕方。
公園で待ち合わせていた友人から、預けていた小瓶を返された。
「確認したよ。中身は正真正銘、ただの水だ。比較的新しい軟水だから普通に飲む事だって出来る。お前の話していた、怪しい婆さんに担がれたんだよ」
「そうか……すまない。有難う」
「気にするな。それよりも早く元気になれよ。じゃあな」
私は友人から返ってきた小瓶をしばらく眺め、ポケットにしまって家路に着いた。
――玄関を開けると、美味しそうな匂いが漂ってくる。
「あっ、お帰りなさい。夜ご飯が出来たよ。一緒に食べよっ」
風香に連れられてテーブルに着くと、目の前にはいびつな形のハンバーグが置かれていた。
「手作りか?」
「そうだよっ。形は変だけど、味には自信があるんだからね」
そう言って、嬉しそうにハンバーグを口にする風香。
その顔が可愛らしく、私はクスッとしてしまった。
「あっ、正さんが笑った!? 珍しいね」
「そうかな……それより、風香はテニス部だったと聞いたけど、部活に戻らないのか? 何度も言ってるけど、家事は気にしなくていいから……」
「戻らないよ。テニスなんて飽きちゃったしね。それより今は、家事が面白いの。中学生になっても、家事は私がやるから任せてよっ」
間違いなく本音を隠している。
「正さん、その目は何? 疑ってるでしょ?」
「いや、サラダのドレッシングが無いと思っただけだよ」
「あっ、ごめんなさい。すぐに持ってくるね」
キッチンへ向かう風香の後姿を確認しつつ、私は黄色い小瓶の中身を風香の前にあるグラスへと注いだ。
『本音を話す薬さ。人間って生き物は、本音を隠して生きるからね。重宝する薬だよ』
ただの水である事は証明されている。それでも、福与と名乗った怪しい老婆の言葉が頭から離れない。
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