奇妙な店

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 吉原正(よしわら ただし)は特に目立った事も無く、平凡な人生を送ってきた。  平均的な学校を卒業し、地元の中小企業に就職する。その後は職場での恋愛を経て、30歳手前でゴールイン。可愛らしい男の子を授かり、家族三人で仲睦まじく暮らしていた。  そんな幸せな家族を、一つの事故が無残に切り裂く。  トラックの居眠り運転による、車線はみ出しの正面衝突。  そして不幸にも、自分一人だけが助かってしまう。  病院で目覚めた時は何も理解出来ず、ただ家族を抱きしめたいとしか感じなかった。 「何故……僕だけ……」  現実を知った正は、その日から瞳に色を失ってしまった。  会社を辞め、飲めない酒で寂しさを誤魔化す日々を送る。  しかし当面はコツコツと真面目に働いた貯蓄があり、手続きが終われば慰謝料や保険金も入ってくる為、自堕落な生活が続いても問題は無かった。  そんなある日の早朝。  親戚の叔父さんから電話が掛かってきた。 「正……梶野さんのご家族が、工事現場の事故に巻き込まれて亡くなられた。小学生の娘さんだけは奇跡的に無傷で助かったんだが……」 「えっ?」  普通なら関わり合う事も無いくらい遠い親戚の話だ。だが同じ県内に住み、生前の妻は友達として親交が深かった為、梶野さんは葬式でも涙を流しながら別れを惜しんでくれた。 「……葬儀に参列します。時間と場所を教えて下さい」  私の中に少しだけ残っている理性が、葬儀場へと足を運ばせた。
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