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【本編スタート】 「雨、なかなか止みませんね」 梅雨というのは、誰が言い始めたのだろうか。 五月が過ぎて雨が降り始めると、たちまち『もう梅雨の時期ですね』なんて天気予報士がテレビで言ってた気がする。 梅の実が熟す時だからって小さい頃に祖母に教えてもらったけど、そもそも梅の実との関わりが無さすぎて、まったくもって実感はない。 私の中で梅雨とは、ただただ連続的に雨が降っては止んで、また降って。 雨が終わったら夏が来るってイメージだ。 「せやなぁ。最近お天道様みえてないなぁ」 柚の隣りで山崎が空を見上げた。 「全然晴れないから、洗濯物がなかなか乾かなくて困っちゃいます」 「おぉ、隊士らも着るもんなくなるって嘆いとったわぁ」 カラカラ笑って不貞腐れてる柚の頬を撫でる。 「朝干して、夜にもなっても乾いてないとガッカリするんですよ」 「そおかぁ」 さらに頬を膨らませた柚が、先日なんとか着物を乾かせようと扇子で一生懸命あおいでる姿を見かけた事を思い出して、山崎は目を細めて微笑んだ。 そこに 「あら?声が聞こえたと思ったら、二人ともこんな所に居たのね。」 書物を持ったカシタが姿を現した。 「あー、カシタン。そーよー。せっかく山崎さんがお休みなのに雨だから、屯所でゆっくりしようかと」 柚が首だけ向けて答えると、 「じゃあ少しだけお邪魔しようかしら。 今日は皆出払っちゃってて静かなのよね」 そう言って、柚の隣りに腰掛けた。
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