2.怯える子犬

2/16
前へ
/232ページ
次へ
僕と綾瀬の出会いは今から1年くらい前かな、高1の夏休みが明けた9月だった。 学校へ行くために朝の地下鉄に久しぶりに乗り、その混雑ぶりにゲンナリしていた時、扉の横にある手すりのあたりに立っている子の顔が目に入った。 クリクリとした大きな目が印象的なとても可愛らしい子だった。でも、その子はすごく困ったような、なんだか泣きそうな顔をしていて、僕はとても気になったんだ。 どうしたんだろうとしばらく様子を窺っていたら、その子と僕の間にいた男がなんだかモゾモゾしていることに気がついた。こんな混雑した地下鉄でモゾモゾ動かないで欲しいな、と僕が眉間に皺を寄せながら見ると、男の手が、どうやらその子の腿あたりを撫で回しているようだった。 痴漢!! 僕は急いで男の手を捕まえた。 痴漢です!って大声を出して逆上されちゃうのも嫌なので、男の耳元で抑えた声で言ってやった。 「あんた、何やってんの?警察行く?」 男はビックリした顔で一瞬僕を見たかと思うと無理矢理手を振りほどいて、ちょうど地下鉄が滑り込んだホームに慌てて降りて行った。 「あ!」 あのヤロー!!
/232ページ

最初のコメントを投稿しよう!

180人が本棚に入れています
本棚に追加