2.怯える子犬

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その子はすごく怯えているように見えた。そりゃ痴漢に遭っちゃったんだからそうなっちゃうよね。 また痴漢ヤローに対する怒りが沸き上がる。 でもその気持ちを抑えて、僕はその子に安心してもらおうと、なるべく優しい声で話しかけた。 「君も東高なの?」 制服に着けてる校章でそう判断した僕が聞くとこくんと頷く。 「そっか、一緒だね。僕は1年3組の倉田大介っていうんだ。よろしくね」 「…1年8組、森野綾瀬」 小さな声で答える。 「8組っていうと、北村っていなかったっけ?」 「…北村…いるかもしれないけど……わからない…」 かもしれないって、わからないって…もう二学期なのに、まだクラスメイトを覚えてないのかな。 「北村って野球部のヤツなんだけど、わかんない?」 「……」 どうやら本当にわからないらしい。 「そっか」 それきり僕たちの間に会話はなくなったけど、僕は森野君と一緒に登校した。
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