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その奇妙な店は 「珈琲屋」と言う名前だった
以前、おばあちゃんから聞いた
喫茶店「珈琲屋」を探してみたくなった私
おばあちゃんから譲り受けた
胸元に刺繍の入ったワンピースを着て出かけた
私は銀座線を降りて混雑のなか喫茶店「珈琲屋」へと向かった
薄暗く昔のままの趣のある階段を上り外へ出たとき、
そこには見知らぬ町並みがあった
「あれ?駅間違えたかな?」と呟く私
どこに降りたのか駅に戻って確かめようと振り返ると
そこには「銀座」と書いた真新しいプレートが掛かっていた
ヨクヨク見ると普段、趣のある階段も真新しい
「ここ、銀座?」
再度、階段を上がり外へ出た
道路の名前を表示する標識にも「銀座通り」と書かれている
確かにここは銀座の交差点
そして路面電車が走っている
映画で観た昔の銀座の風景そのままだった
そうと決まればおばあちゃんの行っていた喫茶店「珈琲屋」もすぐに見つかるかも
銀座の柳を目指して3本目の柳を左に曲がり
右の細い路地を入り通り抜け出た大通り沿いにあるお店だ
銀座にある喫茶店 珈琲屋「通称、蝋燭屋」
珈琲一杯 50円
山手線一区間 20円
そんな時代にあった喫茶店
昔、おばあちゃんがおじいちゃんと知り合う前に行っていた喫茶店
おばあちゃんの若き頃、青春だ
「おばあちゃんの娘時代ね」と
頬を赤らめしわくちゃに笑ったおばあちゃんの青春
その通称;蝋燭屋には暗黙の了解があった
時間が来ると店員さんが
テーブルに小さな蝋燭をたてる
その蝋燭の火が消えたらお店を出る
「そろそろお帰りください」とは言えないので喫茶店の店長が考えた
粋な計らいだ
そしてもうひとつ「暗黙の了解」は
想いを寄せる人に、蝋燭の火が消える前に
想いを伝えることができたなら
ふたりの交わした約束がいつの日か叶うという
知る人ぞ知るジンクスかあるのだ
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