プロローグ:別れの予感

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「嬉しくて泣くのは 悲しくて笑うのは 君の心が君を追い越したんだよ」 夏の終わり頃、レイトショーでも満員の映画館の中あなたと手をつなで見ていた映画のエンディング曲が私に語りかけている。 なんて深い感覚なんだろう、、、あの時はただぼんやり考えていた。 「ここまででいい?」 狭い住宅街、実家の80メートルほど手前で翔は車を停めた。いつもなら家の目の前まで送ってくれる。それからうちの犬とじゃれて帰るのに。犬が吠えると母が出てきて少し挨拶なんかもするのがいつもの光景だったのに。 あぁ、もう終わるんだな私たち 心からそう感じた。涙なら昨日枯れたからもう出ない。ここまでしか送れない翔の心情は痛いほどわかる。 「うん、大丈夫だよ」 そう言った私は、土砂降りのような切なさと悲しみに襲われた。 それなのに、そう言った私は壊れそうな顔でも穏やかに笑っていた。 別れ際に必ずしていたフレンチキスも、今日に限っては触れた唇から翔の悲しみまで私に入ってくるようで、たった一瞬の儀式がこれからはもう手に入らない何か遠い存在に感じた。 22時過ぎの誰もいない住宅街の静けさは二人の悲しみをより際立たせている気がした。 車を降りると、少し肌寒かった。今年は残暑が10月に入った今でも続いているが、それでも夜は冷える。あまり音が立たないように助手席のドアを閉めた。 「ばいばい」 軽く手を振ると、ホンダのオデッセイはいつもの独特の音を立てながら発進し一つ角を曲がってすぐに見えなくなった。 きっと今、私の心が私を追い越したんだな。平凡な日常では感じられない深い深い感覚。 こんなに悲しいのに微笑もうとして微笑んでいた私。 見上げた夜空にはいびつに欠けた月が浮かんでいた。 じーっと見ていたら狂ってしまいそうな衝動とざわめきの感覚が込み上げてきたので、さっと視線を足元にうつし家まで急いだ。家に入ってからは無の状態のままさっとお風呂に入り布団にもぐりこんだ。 翔とは終わる。そう思っているが前から予約していた韓国旅行が来週末に予定されている。チケットも買ってしまったし、旅行には行くつもりだが私はいったいどんな気持ちで旅をすればいいのだろう。何が正解なのだろう。どうしてこうなってしまったのだろう。自問自答を繰り返しながら、出会いまで頭の中で遡り思い出を問いただしていった。 続く
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