近付く距離

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柊の声が聞きたくて、いろんな話をした。大半は、茅萱が話して、それに二言三言柊が答えるだけのことだったが、彼と過ごす時間は楽しかった。 ふたりの距離はゆっくりと近付いていき、春を迎える頃には、側にいるのが当たり前のようになっていた。 「ねえ、柊。柊のお母さんは、どんなひとだった?」 「私の母? ──優しい、ひとだった」 柊が寂しげに笑う。 「槐が自分のことを想ってなどいないと知っていて、それでも私を産んだ。それが強さなのか、弱さなのか……私には解らない」 そっか、と茅萱は言った。 「会って、みたかったな。……お母さん、か」 不自然な、間があった。 柊は、怪訝に思い問いかけた。 「茅萱にも、母はいるだろう?」 神社で遅くまで柊といると、何度か彼の母親が迎えに来ることがあった。茅萱と同じ、穏やかそうな瞳をした長身の女性だった。 「うん。でも、お母さんは、本当のお母さんじゃないんだ。俺は、養子だから」 「え……」 「本当のお母さんとお父さんは、福島に住んでる。年に何回かは会ってるけど、いつもは会えない」 茅萱が両親と離れることになったのは、七つの年だった。 支倉の家系では、七歳の誕生日を迎える頃、その子が先祖返りか否かの確認をする習わしになっている。 神社のご神体である鏡に姿を映し、雷獣の血が発現しているかどうかを調べるのだ。 それによって先祖返りと認められれば、自動的に本家の次期当主となる。 儀式に則って鏡を覗き込んだ茅萱は、そこに金色の獣の姿を見た。茅萱は元々分家筋の子だったが、すぐさま養子縁組の手続きが取られ、本家の子となった。
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