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「今の両親も、とてもよくしてくれてる。でも、時々思うんだ。本当のお母さんとお父さんのこと。あのまま、ずっと一緒にいられたらよかったのにって──」
養子になることを告げられた日は、悲しかった。自分が、要らない子になったのだと思った。
数年が経ち、実の両親の気持ちも、養父母の気持ちも、ある程度は理解しているつもりだが。
決して消えない孤独が、茅萱の中で燻り続けていた。
「まあそうなってたら、柊にも会えてなかったわけだし。きっと、これでよかったんだろうなって思うけど」
「茅萱」
ふわりと、茅萱の頬に何かやわらかなものが触れた。白銀に輝く、絹糸のような髪。
気付けば茅萱は、柊の華奢な腕に抱き締められていた。
「ひ、いらぎ……?」
彼から自分に触れてきたのは、それが初めてで。柊の香りを間近で感じ、茅萱はどきまぎと身を固くした。
「そんなふうに、笑わなくていい」
「え?」
「私の前でまで、取り繕わなくていい」
柊の温かさを、肌で感じる。彼の声は微かに震えていて。心が、震えているのだと思った。
「うん……ありがとう」
冷たく見えるほどの美貌の持ち主で、愛想を振りまくようなこともないけれど。
彼もまた、優しいひとだった。
優しいからこそ、槐との関係に悩みを抱え、茅萱の孤独に気付いてくれる。思わず抱き締め返すと、苦しい、と柊が吐息を交えて笑った。
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