近付く距離

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「──茅萱。どうした、そんな冴えない顔をして」 部活を終え、その格好のまま神社を訪れると、木の上から神様に話しかけられた。 琥珀色の髪が、夕焼け色に染まっている。 「木蓮様」 名を呼ぶと、彼は軽やかに木から飛び降りた。茅萱の方が身長が高いので、自然と見下ろす形になる。 「中学校とやらは、そんなに大変なところなのか?」 「それもありますけど……」 茅萱の目が、無意識に柊を探してさ迷う。すると、ああ、と納得したように木蓮が笑った。 「柊ならな、今日は終日社(やしろ)の中だ」 「お社、ですか?」 「そうだ。少し、このところ力が落ちてきていてな。部屋で休ませている」 「え……っ」 「人で言うなら、夏ばて、とかいうやつじゃな。念のため左京を側に付けたが、大したことはない」 左京というのは、当時木蓮の従者を務めていた男で、刀に命が宿ったことにより生まれたあやかしだった。
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