近付く距離

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自宅にたどり着くと、母屋を通り過ぎ、自室のある離れへと向かう。 茅萱の家は、代々神主の一家が暮らす母屋と、先祖返りのための離れとに別れている。 離れに先祖返り以外の者が住むことは許されず、先祖返りが不在の間は、離れの扉は固く閉ざされることとなる。 事実、茅萱が先祖返りとして引き取られてくるまでの数十年間、離れが使用されることはなかった。 支倉の家の子になったばかりの頃は、離れにひとりで放り込まれることにさすがに恐怖を覚えたが、慣れてしまえばどうということはない。 大正ロマンとでもいうべき古めかしい内装も、今ではそれなりに気に入っていた。 茅萱は急いで自分の部屋の中に入ると、戸を閉め鍵をかけた。室内には臙脂(えんじ)色のカーペットが敷かれている。茅萱はカーペットの上にバッグを落とすと、倒れ込むようベッドに横たわった。 「……っ」 緩やかに形を変え始めているものに気付き、泣きたくなる。 先程の柊のしどけない声に、甘い香りに、どうしようもなく身体が反応してしまう。 ジャージの中に手を入れ、下着越しにそっと触れてみると、そこだけ火傷しそうなほどに熱かった。 「ふ、……っ、う」 下着から取り出し、直接触れてみる。少し触っただけで、芯を持ったように固く変化していく。先端に指先を乗せると、とろとろと濡れた感触がした。 自らを慰めるような行為を、茅萱はそれまでしたことがなかった。 そういう生理現象のあることはもちろん知っていたが、こんなにも抑えの利かない、狂暴な感覚だとは思わなかった。
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