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柊は、茅萱が身構えることなく付き合える、数少ない存在だった。
上位のあやかしには、人を魅了する力がある。槐ほどではないが、先祖返りとして生まれた茅萱にもその傾向があった。
自分のことをよく知らないはずの相手から想いを寄せられるということは、幼い茅萱にとっては一種の恐怖だった。
力を抑え込む術を槐に教えてもらってからは、むやみやたらに人を惹き付けるようなことはなくなったものの。
自分の側にいてくれるひとは、「茅萱」だから側にいてくれるのか、それとも「先祖返り」の自分を見ているのか。
常に、そうした葛藤を抱かずにはいられなくなった。
その点、槐の血を引く柊には茅萱の力は通じない。先祖返りであること、あやかしを見る力を持っていることを、隠す必要もない。
出会ってまだ一年にも満たないが、柊は自分にとって大切な友人だった。──そう、ずっと「友人」として接してきたのだ。
しかし、と茅萱は考える。
「友人」ならば、彼が誰とキスをしようと彼の勝手ではないのか。誰と触れ合い、誰に抱かれようと、友人の自分が口を出すようなことではない。
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