初めての相手

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柊、という名前を聞いただけで、胸の鼓動が早くなる。こんなふうに自分の心を揺さぶるのは、彼だけだった。 伝言はそこまでだったらしい。役目を終えた兎は光を失い、一枚の紙へと戻っていく。兎の形に切り抜かれた、桜色の和紙。茅萱はそれを拾い上げると、机の引き出しの中にしまい入れた。 木蓮は、自分が何か抱え込んでいることに気付いているのだろう。それが、柊絡みだということも。 自分の知る神様は、表面上の違いはあるものの、皆根っこの部分は似通っている。──優しくて、世話焼き。そうでなければ、神様など務められないのかもしれない。 茅萱は要らない紙を蝶の形に切り抜き、夕食後に伺います、と少年のものにしては整った字で書き入れた。 紙の上に手ををかざすと、微かな音を立てて金色の光が紙へと流れ込む。すると、蝶がゆらゆらと羽をばたつかせ始めた。 「──木蓮様のところへ」 命令を認識すると、蝶は部屋の窓をすり抜け、外へと優雅に羽ばたいていった。
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