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「茅萱」
「はい」
「昨日、柊に会ったか?」
茅萱が黙り込むと、やれやれ、と木蓮は眉尻を下げた。琥珀色の瞳が、気遣わしげに茅萱を捉える。
「見たのか」
「……っ」
「ああ、答えずともよい。大体察した」
こどもの身体には似つかわしくない大人びた口調で、木蓮は茅萱を制した。
「──なあ、茅萱。あやかしが、力の受け渡しを行うことがあるのを知っているか?」
「力の……?」
「そうだ。己の力を他者に与えることも、逆に他者の力を吸収することもできる。それは同意の下で、あるいは争いの中で行われる」
木蓮のやわらかな髪が、風に揺れる。
「手段はいくつかあるが──唇を合わせるというのも、その手段のひとつだ」
「あ……」
左京の口付けに応じる柊の顔が、鮮明に思い出された。甘く、とろけるような香りと共に。
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