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「何も口付けずとも、身体の一部を触れ合わせさえすれば力の受け渡しはできる。だが、力を溢すことなく受け渡しを行うには、より深く相手と繋がる必要がある」
「昨夜柊は、左京さんから力を受け取っていた、ということですか」
「ああ」
木蓮は俯き、草をぷちっとむしって風に流した。緑の吹雪が、一瞬茅萱の視界を横切って消えていく。
「柊に限らず、あの蛇──槐の子というのは長生きしない。上位のあやかしの子というのは、えてしてそういうものじゃからな」
木蓮の言葉を受け入れるのに、茅萱は数秒の時間を要した。脳が、それを理解することを拒んでいた。
「あと何年生きられるか、正確なところは我にも解らん。それを多少なりとも伸ばすために、柊には定期的に力を与えておる」
昨夜のキスは、柊を生かすための行為。そうと知っても、この胸に燻る火は消えてはくれなかった。
理由は、もう解っていた。
「その役目は、左京さんじゃないとだめなんですか」
「なに?」
「俺では、いけませんか」
あれが単なる力の受け渡しに過ぎないのだとしても、柊には他の誰ともキスをしたりしてほしくない。
彼の最も近い場所にいるのは、常に自分でありたかった。
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