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「……左京に託したのは、身近にいるあやかしの中で最も信頼の置ける相手だと判断したからだ。我はこの土地の神だ。何かあったときに力を失っているわけにはいかない。蛍や七節にしてもよかったが、近くにいる者の方が何かと都合がいい」
茅萱とて、左京を信頼していないわけではない。その人柄も含め、柊を任せるに足るあやかしであることはよく分かっていた。
「別に、左京でなければならないということではない。雷獣の先祖返りなら、十分役目は果たせよう」
だがな、と木蓮は明瞭な声で言った。
「茅萱、これは本来おまえが関わるべき事柄ではない」
「……っ」
そのきっぱりとした物言いに、茅萱はわずかに身を強張らせた。
「人とあやかしが関わりを持って生きてゆく時代は、とうに過ぎた。今は、互いの領分を侵さないことを前提としている。こちらの問題は、こちらで処理する。おまえにこの話をしたのはな、柊の友としてのおまえに情けをかけただけのこと」
あれほど側にいて、何も知らされないのはかわいそうだと思ったのだと木蓮は言った。
「先祖返りとはいえ、器そのものは人であろう。必要以上にこちら側に立ち入らずとも……」
「嫌です」
気付けば、そんな言葉が口の端から零れ落ちていた。目の前で、木蓮がぽかんと口を開けている。鳩が豆鉄砲を食らったような顔、というのはきっとこんな感じなのだろう。
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