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「俺は、先祖返りだからここにいるんです。自分の中のあやかしの血を、なかったことにはできない。人だからと、線を引くのはやめてください」
「茅萱……」
人でもない、あやかしでもない、中途半端な存在として生きるよりは。人であり、あやかしでもある、そういうふうに生きていきたかった。
「あと、俺──柊のことが好きみたいなんです」
「……は?」
「柊には、俺以外の誰かとキスしたりしてほしくない。それが彼にとって必要なことなら、他の誰かじゃなくて、俺に任せてほしいんですが」
昨日からずっと、考えていた。自分の、柊への気持ちについて。
大事にしたい、守りたい、触れたい、俺だけものにしたい。そういう気持ちは、友人としての好きでは収まりきらない。
あやかしで、男で、普通は恋愛対象になどなりえないはずの相手だが。
それでも自分が柊に恋しているということを、茅萱は認めないわけにはいかなかった。
木蓮は、一瞬、何を言われたか分からないという顔をして、それから盛大に吹き出した。
「茅萱……っ、おまえ、思ったより阿呆じゃな……?」
「木蓮、様?」
息苦しそうにしながらも、木蓮はしばらく笑うのをやめなかった。ひとしきり笑い終えると、まなじりに滲んだ涙を拭いつつ彼は言った。
「こんなに笑ったのは、久し振りじゃ。いいだろう。おまえの望み、叶えてやる」
「え」
「柊の命を繋ぐ役目は、今後おまえに任せるとしよう」
そう言って、彼はにやりと短く笑った。
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