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話が終わると、木蓮と茅萱はまたあやかしの道を通って神社へと戻った。あやかしの世には昼も夜もない空間が存在するが、人の世ではそうは行かない。すっかり夜の闇に包まれた境内で、木蓮は軽く伸びをした。
「ふう、何だか疲れたな」
首をこきこきと鳴らしてから、彼は茅萱の方を振り返った。
「柊には、もう言ったのか?」
曖昧な問いに茅萱が首を傾げると、木蓮は意味ありげに笑ってみせた。
「想いは告げたのか、と訊いておる」
「……いいえ」
「そう、か」
木蓮が、足元に落ちていた小石を蹴る。それは石畳の上をころころと転がって、二、三メートル先で静かに止まった。
「おまえも知ってはいるだろうが……我らは、我らの理の中で生きておる。愛や恋のためではなく、繁殖のためだけに交配を行うあやかしも多い」
群れを作らず、単体で生きるあやかしには、特にその傾向が顕著だと聞く。
槐に仕えるあやかし、蛍に恋をしているらしい木蓮は、あやかしとしてはめずらしい方なのかもしれない。
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