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青龍寮の休憩室で鉄面皮と笑顔の仮面が向かい合っていた。
「多忙の中、僕の呼び出しに応じてくれてありがとう」
「あたしは貴方と違って立場がある分、放課後はそれなりに忙しいのですが」
「こうしてわざわざ出向いてくれたからには、君にも思う所があるんだと推察するけど?」
「腹の探り合いをするつもりはありません。時間の無駄です」
ぴしゃりと切り捨てる七色の圧力に恵流は帯を引き締めなおす。せっかくの機会を棒に振る事は避けたかった。
「今日、僕のクラスに転校してきた森泉イリスについて何か知っている事があれば聞きたいんだ」
学園を代表する組織である執行部に所属していて方々に太いパイプを持つ七色なら何か事情を知っていても可笑しくはない。
七色は表情を変える事無く淡々と答える。
「やはりその話ですか。生憎、彼女についてはあたしも貴方ほどの知識しかありません」
「そうだろうね」
恵流とて駄目で元々の行動だった。七色の正直な受け答えに然程の失望はない。
「だったら、君はどうしてわざわざ僕に会う時間を割いたの?」
返礼のつもりはない。それが恵流にとって有益な話であるか不確定である以上は、その判断は聞いてからでなくては始まらない。
七色はサファイアの瞳で恵流を見据えて、告げる。
「あたしたち執行部は、近いうちに『第四設定世界』を攻略します。遅くとも来週には……それだけ、伝えておこうかと思いました」
「それは挑発――じゃないんだろうね」
「あたしは借りを作る事を好みません。もし貴方が希望するなら、エンディングに立ち会う事を許可しますが、どうしますか?」
答えは決まっている。恵流にプライドはない。信じられる自我の在り処は意識の遥か埒外にある。だから。
「僕には関係ないね」
己の訴える感情を優先する事に惑いはない。それこそが、恵流が唯一持っている平野恵流としての感覚だ。
「そうですか。これであたしの用件は片付きました。そちらは?」
「僕の方も君は用無しだよ」
「では、あたしはこれで失礼します」
七色が規則的な足取りでその場を辞する。事務的な遣り取りは終始淡泊に尽きた。
休憩室に残った恵流は椅子の背もたれに仰け反る形で体重をかけて天井を仰いだ。
「むしろ、僕の興味が向くとすればその後かなぁ」
その数日後、一大ニュースが学園中を駆け巡る事となる。
――執行部が『第四設定世界:廻星のアリス』をクリアした。
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