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「僕が君に求める事の大筋は君が言った通りかな。遊撃隊として予測できない動きをして撹乱する」
執行部側の動きは殆どリアルタイムで不足なく捕捉されている。
一つの頭の下で動いてる限りは敵の思う壺だ。状況を覆すには、まず相手の”完全な掌握”を破る必要があった。
「意地悪く揺らしてやれば唯でさえ不安定な足場なんだ。すぐに何処かで綻びが出るよ」
「どうやらお得意の悪ふざけじゃねーみたいだな。だったら俺も多少まともに答えてやるよ。決勝までの二戦は集団の練度を高める踏み台にする予定になってんだ。各々自由に伸び伸び動き回ってればここは片付くだろうけどな、それじゃあ最終的な勝利を取り零すかも知れねぇ」
「それなら『そういう作戦』だって事にしよう」
「やけに焦ってんな、平野。てめぇの言ってる撹乱を仕掛けるのは別に大将の元に集合してからでも遅くはねぇ」
「焦りもするでしょ。無意識に戦力差の上に胡座を掻いてる事に気付いてる? 敵の全滅以外にも勝利条件がある事を忘れてるよね」
大掃討戦は一戦につき四十五分と明確に時間が規定されている。制限時間を過ぎた場合は判定により勝敗が決定されるのだが――。
「僕達は二度の戦闘で不利を強いられて、相手に”数的優位”を与えてる。このまま判定に持ち込まれればどうなると思う?」
どくん、と。恵流の明快な質問が寝耳に水であった事実が聞いた者の電子の心臓に大きな鼓動を打たせた。片手剣を突きつけていた一年生の少年が騙されてなるものかと頭を振る。
「まだ三十分は残ってる。全員無傷で逃げ切れるわけが――!」
言葉はそこで途切れた。恵流がデコピンで弾いた何かが少年の視界を覆ったからだ。
「これがあれば例え僕が僕を百人連れていても逃げ遂せる自信があるよ」
可視化されたディスプレイには恵流が眺めていた時のまま”戦況図”が表示されていた。
「傲慢な”君達”と違って、相手には『逃げに徹する』って選択肢が最初から頭の中にあった筈だ」
「……ああ」
「今ならまだもう少しマージンを稼いでおきたいって欲目が出てる可能性がある。逃げるだけなら一度の成功でいいんだ。でも、二度繰り返されている。僕達に本来の思惑を悟らせない為のカモフラージュって線もあるけど」
敵勢は最後まで各個撃破の流れを続ける可能性も充分にある。が、それはわざわざ口にするまでもない。不登の指示はその警戒をしたものだ。
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