三章:予定調和

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  恵流としても不干渉を強要される蚊帳の外に追い出されるのは避けたかった。となれば、恵流に残されている選択肢は一つだけだ。 「僕の敏捷値の設定を考えれば僕を置いていった方が絶対に身軽で良いと思うんだけどなぁ」 そんなぼやきを漏らしながら、恵流は隊列の先頭で待機する近重の後ろに小走りで移動する。全体の監視の目が光る其処が恵流に与えられた定位置だった。 恵流の視界の右隅にはプライバシーモードで戦況図が縮小表示されている。秒ごとに更新される味方達の座標。その中に集団を離れて単騎で疾走する者がいた。 一人で何でも出来る癖に、一人でいられないなんて難儀な性格をしている元相棒の姿を浮かべて、恵流の唇の端が僅かに上がる。 「それは悪手だよ」 ――だけど、それでこそ鶴来菖蒲だ。  ◇   ◇   ◇ 近重隊が命令無視を決断するのとほぼ同時刻。 恵流とは異なるアプローチで相手の戦略を看破した菖蒲は寸暇を惜しむように独断で持ち場を離れて、木々が鬱蒼と生い茂る視界も足場も悪い森林フィールドを豹の如き俊敏さで駆け抜けていた。 菖蒲の予想――直感が示した通りなら、次に襲われるのは最後に本陣に帰参するであろう斥候部隊だ。そして、その予測は見事的中した。 菖蒲の進行方向、戦況図に突如として湧いた赤い点。その数はざっと見積もって五十は下らない。対して味方を示す青い点は十程度。しかも、隠密行動に寄る索敵を旨とする彼等の戦闘力は他のグループと比べると一段ばかり劣る。 数の暴力には抗えない。最も近い位置にいる執行部の他の人員もまた戦闘力の面でやや心もとなく、タイミングが悪ければミイラ取りがミイラになってしまう危険性が過る。そんな逃走一択の場面。しかし、敵は恐ろしい精度で敷かれた三角包囲でもって逃げ道を塞いでいる。執行部の手の内を知り尽くした計画的な布陣だ。 「これくらいなら、俺一人でも……!」 ゆえに、味方すらも巻き込んだ菖蒲の奇襲は敵の出鼻を見事に挫いた。 剣戟とスタンディングオベーションばりの鶴来コールが交錯し、戦禍の煽りでハラハラと舞い落ちる木の葉に紛れて無数の蛍のような淡い光が浮かび上がる。それは菖蒲によって刹那に切り伏せられた敵だった者達の末路だ。
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