三章:予定調和

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  菖蒲を含む序列上位者(ランカー)と呼ばれる猛者達は単独で容易に戦術を破壊する。五倍に近い戦力差はたった一人の乱入によって均衡まで推移した。 とは言え、切り札となる”象徴の具現”を行使しない――使えない現在の菖蒲ではそこまでが限度だ。 菖蒲が敵を三人仕留めている間に一人倒され、味方はみるみるうちに数を減らしていく。 あっという間に生き残っているのは菖蒲だけになった。だが、それでいい。例え”不測の事態”で菖蒲が力尽きる事はあったとしても局所における勝利は確定している。 「くっ、お前さえ来なければ!」 「それはお前達の失策だろ。俺だって、お前達が此処に来なければ戦わなくても済んだんだ」 淡々と告げる菖蒲を囲む人数、およそ二十。それが一斉に菖蒲に殺到する。攻撃属性を持つ影響/効果(エフェクト)が中距離から飛来したかと思えば近接物理が襲い来る。継ぎ目のない波状攻撃を持ち前の敏捷性で翻弄しながら隙を伺う。流石に密度が高く手が回らない。 しかし菖蒲は落ち着いていた。むしろ焦れているのは相手の方だ。無理もない。 せっかく稼いだ数的優位を覆された。それだけではなく、予定していた時間を大幅に超過している。 リーダー格の男が仮想の通信機に向かって感情を露わに怒鳴っていた。 「ああっ、うるっせーよ! 俺達だって撤退できるものならしてーよ! でも鶴来を放置して背中を向けようものなら俺達を綺麗サッパリ刈り取るまで延々と追ってくるぞ!」 だから菖蒲を処理しなければいけないと敵の攻撃はより苛烈になっていく。視界を彩る電子の火線は、ともすれば味方への直撃すらも厭わない。自滅すれすれの乱舞に特攻。それらは只でさえ極小の菖蒲の逃げ道を派手に、そして雑に埋めようとする。 「お前らふざけてないで全力でやれよ! こっちには何人いると思ってんだ!」 「やってる! それどころか限界以上の事だってしてる! 解るだろ!?」 だが、それでも菖蒲の体力は削り切れない。根本的な話、彼等の脳が菖蒲の速度に追いつけていなかった。菖蒲とまともな戦闘をする為の最低条件すら満たせていないのだから、戦いにならないのも当然だろう。 「能力値(ステータス)の合計は同じ、使用しているエフェクトの開放段階は同等。なのに、この有り様はなんだよ……!」 「これが学内序列五位の実力。こんなバケモノが、これ以上のバケモノが、この学園には後四人もいるっていうの?」
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