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青龍寮の一部屋。一回戦を終えて、肉体乖離型拡張装置から出てきた菖蒲の元に精悍な男――不登が訪れる。
「此の度の勝利は鶴来の機転に寄る部分が大きかった。執行部を代表して礼を言う」
「あ、ああ、うん……力になれたなら良かった」
応対する菖蒲は視線を彷徨わせて気も漫ろだった。
「二回戦も宜しく頼む。時間は覚えているか?」
「あ、えっと。昼を跨いで二時間後、だったよな」
「我々はこれから対戦を観戦しつつ方策を再考する予定だ。その周知の為に三十分前にはブリーフィングルームに集合するようにして欲しい」
ブリーフィングルームとは、対戦が開始される一時間前にチーム毎に開放される『第四設定世界:廻星のアリス』内の専用施設で、大掃討戦期間中の現在はポッドのログイン先が其処に統一されている。
ちなみに参加者以外はポッドの利用そのものが制限されており、設定世界で遊ぶ事が出来なくなっている。
「わかった。アラームをセットして遅れないように気をつけ――」
言葉が止まる。ただでさえ白い肌が心なしか血の気を失って青くなり、二つの意味で菖蒲の表情が凍った。
「どうかしたのか? 体調が優れないのであれば保健室まで送るが」
「い、いや、なんでもない!」
「そうか。今日は各所に屋台であったり、お祭りの名目に違わない出し物に溢れている。鶴来は空き時間を心ゆくまま過ごすといい。それでは、俺はこれで失礼する」
その声はもう菖蒲の耳には入ってこなかった。不登と入れ替わる形で名前を体現するような満面の笑顔を輝かせた後輩がやってくる。
「あやーめせーんぱいっ」
語尾に音符でも付きそうな弾んだ声音に菖蒲の幸せな希望的観測は粉々に砕かれた。
覚悟していたつもりだったが、閉じ込めていた悪い想像が待ってましたとばかりに飛び出して、菖蒲の身体は情けなく震え出す。
「これから陽とちょっぴりお話しませんかー?」
菖蒲に拒否権など無かった。
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