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菖蒲はそのまま俯き、ぎゅっと瞼を閉じて怒涛と押し寄せる不安に耐える。
「あのですね、そんなにびくびくされると陽は傷つくのですよ。陽が秘密を盾に強請るような悪い子に見えます?」
そう言って陽は腰に手を当てて前傾姿勢になり、ぶーっと片頬を膨らませて菖蒲の顔を覗き込む。菖蒲は陽の顔色を伺いながら恐る恐ると言った様子で言う。
「え? うん、見えるけど……」
えいや。正直は美徳である。この期に及んで嘘を塗り重ねる事は得策ではないと菖蒲なりに考えた結果なのだが、これに陽はおでこにデコピンされたような衝撃を受けて片手で額を抑えて二歩下がる。
「あっ、ごごごごめん。陽は可愛いです。とっても可愛くて、性格も綺麗で……あ、足も長い! あっ……うん、長い! そ、そんな天使の申し子みたいな陽が悪い子であるわけがないよね」
あろうことか嘘と失策を塗り重ねる菖蒲。陽は小さい。それはもう色々と小さい。それは挑発を通り越して攻撃と言っても過言ではないお世辞だった。
「透けてるどころか生まれたままの姿の社交辞令をありがとうございます。菖蒲先輩のお気持ちはよーっく解りました!」
「う、嘘じゃないよ。本当にそう思ってるよ!」
「じゃあ『あっ』ってなんですか! やばいって思ったんですよね! ゴリ推したんですよね!」
「……ごめんなさい」
「真顔で謝らないでもらっていいですか」
と、陽も真顔で言う。菖蒲に悪気はないのは見た通りだ。少し過剰に嫌味に感じてしまうのは自身の性根の問題なのだろう。いや、どうだろう。いや、そうだ。陽は自問自答の末に疲れた顔で溜息を吐く。
「とりあえず陽は菖蒲先輩の秘密を公にするつもりはないので、その点は安心してくれてよいのですよ」
「そ、そうなんだ……良かった」
部屋に帰る前からずっと張り詰めていた菖蒲の表情が一先ずの安堵に綻ぶ。猛烈な庇護欲をそそる弱々しい微笑。魅力製造マシーンかよと内心で毒づきながら、陽も負けじとニパーっと快晴。あざとさで対抗する。
「その代わり”お願い”をする事はあるかも知れませんので」
「あ、うん……そうだよ、ね」
基本的に人の機微に鈍い菖蒲でも、その言葉の行間を悟る事は難しくはない。目の前にいるあざとい後輩は小さな悪魔なのだ。
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