三章:予定調和

16/55
前へ
/281ページ
次へ
白い壁と蒼の電子エフェクトが織りなす一部屋には椅子と机が整然と並んでいる。 段型になっている座席の最後方に孤立して端末(バングル)を操作していた恵流が「へぇ」と呟いて、ここに来て初めて正面でこの場を仕切る不登に視線を投げた。   執行部が優勝の座につくまで残り二勝。決勝戦進出を懸けた戦闘を二十分後に控えた仮想のブリーフィングルームでは、一回戦で浮き彫りになった問題について『対策』の通達がされた所だ。 「不満は承知している。反論があれば後ほど聞こう。だが、この決定に変更の余地はない事を予め了承しておいて欲しい」 「問答無用だね。僕に馬の耳に念仏を唱える趣味はないよ」 恵流は無邪気に笑って、おもむろに端末(バングル)の表示を執行部専用の戦況図アプリに切り替える。 画面(ディスプレイ)にはアクセス権限を示すエラーが吐き出され、何一つ情報が開示されなくなっていた。事後通達。既に処理は終わっている。 陽もまた同じ挙動をして、机の下で強く拳を握った。 「これより作戦の最終確認を行う。申し訳ないが、鶴来、平野、宮園の三名は速やかに退室を願えるか」 部外秘の話をする場に内通の嫌疑のある者達を同席させるのは愚の骨頂だろう。 恵流はあっさりと席を立って一切の音を通さない扉を開いて教室を出て行く。菖蒲はバツが悪そうに見つめてくる七色に困ったように苦笑を投げてから、その場を辞する。 「陽は……」 「宮園?」 前髪で表情を隠して歯噛みをする陽に視線が集まる。同情が占める比率は極小で、かと言って敵意もそう多くもない。瞳にあるのは大半が無関心だ。 「いえ、何でもないのですよ。え――平野先輩と同列に扱われてしまったのは少しというか、かなり傷つきますけど、立場的に疑わしいですもんねー、はい! 文句はありません! さぞやくじゅーの決断だったとお察しします!」 陽はしゅたっと直立して早口に捲し立てた。途中から失態を自覚してあざとい笑顔に陰りが生じる。 陽は勢い良く会釈をして顔を見えなくする。早々に退散するのが得策だろう。 「余計な時間を割かせてしまってごめんなさいです! 陽はこれにて失礼するのですよー!」 陽が踵を返して後方の扉から走り去って間もなく、ブリーフィングルーム内に不登の声が響いた。  ◇   ◇   ◇
/281ページ

最初のコメントを投稿しよう!

92人が本棚に入れています
本棚に追加