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源王学園の教室に似て清潔感と近未来感が調和された白を基調とする内装はブリーフィングルームの外の一本道にも共通していた。
窓などの自然光を取り入れる仕組みはなく、規則的に設えられた照明が消灯すれば忽ち目と鼻の先も視認が困難になるであろう閉鎖空間。
前後に行き止まりがあり、片方の扉が今しがた恵流が出てきたブリーフィングルームに繋がり、もう一方はフィールドの移動に利用する転送室に続いている。
通路で立ち往生していても仕方ない。退室順にそれぞれの足は自然と転送室に向いた。規則的に床を叩く硬質な靴音がやたらと反響する。
会話もないままややあって恵流が通路の突き当りに到着すると、上下五本ずつの歯を噛みあわせたような扉が招くように自動的に開いた。
淀みのない足取りで境界を跨ぐ。先程とは打って変わって視界が薄暗くなる。そこは群青の壁が頼りない蛍火によって照らされたドーム状の部屋になっていた。
中央にはこの部屋の機能である新緑の膜に囲まれた大きなカプセルがふてぶてしく鎮座している。規定の時間になれば待機状態が解除されて、参加者達を戦闘フィールドに誘う役割を果たす。
「ふぅ」
菖蒲は右手に進んだ恵流とは反対方向に進路を取って、適当な所で壁に背中を預けた。システムがひんやりとした冷たさを菖蒲に感じさせる。
しばらく目を閉じて時間の経過を待っていると、足音が一つ近づいてきた。おもむろに瞼を開くと、輝かんばかりの桃色が菖蒲の視界を染め上げる。陽だった。
「な、何か用か?」
警戒心を剥き出しに尋ねる菖蒲を、陽はうるうると涙を滲ませた瞳で見上げる。
「用がなきゃ来ちゃ駄目ですか?」
「俺にその手の演技が通じない事はもう知ってると思うんだけど……」
「そう言えばそうだったのですよ。つい、癖で」
えへへとハニカムそれすらもブリっ子武装ではないのか。秘密云々とは別に陽を末恐ろしく思う菖蒲の気持ちを置いてけぼりに、陽は「用という程ではないんですけどー」と前置きして。
「どうして菖蒲先輩は大人しく不登先輩の指示に従ったんですか?」
「どうしてって、どうして?」
菖蒲には陽の質問の意図が汲めない。不登は文句は聞くが、聞くだけだと言っていた。だったら口答えしたって無意味に尽きる。
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