三章:予定調和

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  「だって、菖蒲先輩は完全にシロじゃないですか。菖蒲先輩が”裏切り者”なら、一回戦で敵の虚を突くような真似はしなかった筈なのですよ」 「ははは……」 もう少し慎重に動いていれば陽に向こう脛を見せる事は無かったなぁとズレた所で菖蒲が自嘲する。 「功労者の菖蒲先輩に対して執行部が下した処遇は、かなり不義理だと思うのですよ」 「でも俺も結構な失態をやらかしてるからな。模擬戦の時だって陽から逃げる為だけに自刃してるし、怪しい事に変わりないだろ?」 「そうですけど、菖蒲先輩はあからさまに疑わしい恵流先輩とは違うじゃないですか」 菖蒲が首を横に振る。決して違わないのだと言うように。 「気にかけてくれてありがとう。でも、これでいいんだよ。散々のえると一緒に過ごしてきて、今さら無関係を主張して潔白になろうとするならそれこそ不義理だろ」 陽は一つ思い違いをしていた。執行部の判断は誠実ではないのかも知れないが、菖蒲には何一つ不満はない。 ――陽とは違って。 「一度思い切り疑ってもらった方がいい。この二回戦で俺達の身の潔白が証明されれば今後は疑われる事もなくなるよな」 「……例えば恵流先輩が内通者だったとして、この措置で情報漏洩がなくなれば陽達も巻き添えで隔離されたままになると思うのですよ」 「うーん、ありそうで困るな」 「ですけど、今の内なら菖蒲先輩だけはあちら側に戻る事が出来るかも知れません」 いつの間にか声に熱が籠もり、陽は菖蒲に詰め寄る形になっていた。そんな折だ。もう一人の爪弾きものが陽の背後に忍び寄る。 「やけに必死だね。そんなに菖蒲を執行部の内部に押し込みたいの?」 突然声を掛けられて、陽は肩をびくつかせて勢い良く振り返る。そこには口に弧月を描く男がいた。 「引っかかる言い方をしますね、恵流先輩」 「そう? 僕は見たままの感想を言ったまでだけどね」 悪意なんてありません。混じりっけのない好奇心です。そう言いたげに親しみを込めた笑みを送ってくる恵流に負けじと陽も無垢な笑顔で張り合う。
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