三章:予定調和

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  そして菖蒲は自分の取った態度に後悔して頬を赤らめる。いじけている子供そのものではないか。 だが、そんな羞恥心は次の恵流の発言によって綺麗さっぱり押し流される事になった。 「あらゆる面で考えて、二回戦で内通者が情報を流すメリットがないんだ」 そっぽを向いたまま首を捻る菖蒲を見て恵流は仕方がないなぁと補足をする。 「余り物で構成されたチームの戦力なんてたかが知れてる。だから相手は一回戦同様に削れる所から削って数的優位を作るか、いちかばちか総戦力を投じて”大将”を倒す以外に勝ちの目がないんだけど、一回戦の惨状を踏まえて執行部は『逃げ切り』の対策を万全に整えているに決まってるでしょ?」 「はぁ。でも本物の犯人に情報を流して貰えないと陽達は三回戦も同じ扱いを――」 「あっ……」 そこまで考察が進めば鈍感な菖蒲でも気づいてしまう。杞憂であって欲しい。杞憂でなければいけない。そんな、致命的な欠点を。 「内通者が情報を流さなければ容疑者は俺達の中にいるって疑心が強まる。こっちにはそれだけの”メリット”がある」 執行部も恵流も内偵を仕立てあげたのは二強同盟であるという見解で一致している。その目的は言わずもがな、優勝の座に着く事だ。 その為には、必ず執行部を下さねばならない。もし恵流の推測通りなら、それは最善の一手になるだろう。執行部と二強同盟の頂上決戦は一回戦の段階から繋がっている。 「そうそう。三回戦において、二強同盟はともすれば執行部を凌ぐ駒を運用しながら、情報戦でも圧倒的優位を築く事ができるんだよ。そうなれば、二強同盟の勝利は約束されたようなものだね」 菖蒲は今ほど恵流に奸計を巡らせていて欲しいと祈った事は無かった。 三人の中に黒がいようがいまいが、三回戦も爪弾きにされている状況が続く事になる。それだけなら構わない。 「最悪のパターンを覆すには、まず俺達の潔白を証明しないといけないのに、その方法がないぞ……」 情報共有の輪から三人を除外した状態で内通者が動いてくれなければ執行部が身内を疑う気にはならないだろう。 「いっそ無難なラインで陽が真っ黒だったら良いんだけどねぇ」 そう言って無邪気に笑う恵流を見て、陽は頬を引き攣らせる。 恵流の言っていた通り、二回戦は情報漏洩の兆候もなく執行部の快勝に終わった。  ◇   ◇   ◇
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