三章:予定調和

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  源王学園に点在する五つのグラウンドの内、本校舎正面にある中規模の校庭の中心には大掃討戦に合わせて一夜にして観戦用のステージが組み立てられていた。 ステージの上にはディスプレイの役割を持つ機材が一基と実況席が二つ用意されている。一言でディスプレイと言っても一般的なスクリーンとは一線を画する。 鉄骨で簡易的に組まれた高座は360度を見渡せるようになっており、そこに置かれている旧式のプラネタリウム投影機を彷彿とさせる機材に焦点を合わせると大掃討戦の映像が直接網膜に投射される仕組みになっているのだ。 いわばグラウンド全体が観戦席。その周囲には出店スペースを勝ち取った有志達の模擬店や学園側が用立てた業者の露店が並び、いっそうの活気を支えていた。 ――のだが、盛んに行き交っていた声が急激に音量を落とす。学生達の視線は映し出される大掃討戦の光景に釘付けになっていた。 騒ぎとは色合いが違う低音域を震わせる声の津波はどよめきだ。休みなく喋り通していた実況席に座る放送部員と解説として呼ばれた新聞部所属の情報通の生徒までも、呑まれて己の役割を忘れてしまっている。 メルヘンが彩る仮想の遊園地フィールドでは目を覆いたくなる程の虐殺が繰り広げられていた。 直前の執行部の戦闘もワンサイドゲームではあった。けれど、これと比べたら生易しいと言わざるをえない。一縷の希望も入る余地のない徹底的な蹂躙。 それを演出するのは集団の力を嘲笑うように、それぞれの理不尽を押し付けて回る十四名の悪魔達だ。 「あれあれー、気付いたら先輩が最後みたいだねー?」 くすんだ菊と深い夜の異色の虹彩(オッドアイ)が哀れなる獲物を捕まえる。男は背中を見せて一も二もなく逃げ出した。 「何が個性だ。こんな不平等が許されるのかよ……俺達は、何なんだよっ!」 息を切らせて走りながら漏れる大将の切なる嘆き。追手は来ない。だが、逸る心臓が絶えず警鐘を鳴らしている。 ふと、この辺りの景色はこんなに暗かっただろうか? と男は思った。そして頭上を仰ぐ。 「ああっ」 ――たちまち巨大な岩塊が男の視界を埋め尽くした。 戦闘開始から僅か七分。大掃討戦二回戦第二試合は電撃的に決着した。 「い、いやぁ、凄い戦闘でしたね。実力差は歴然だったとは言え、あまりにも一方的でした」 戦闘終了のブザーが鳴って実況者が思い出したようにマイクを握る。
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