三章:予定調和

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  その台詞の意図の在処を探して、悟って、陽は無表情で呟く。 「陽が生き残る術はこれしかないので」 お互いに何かを含ませた訳ではない。まさしく聞いた通りの意味だ。 「見向きもされない太陽は、脳天気な人達を照らすだけの日陰者」 ちっぽけな陽ごときの介入では終着点を少しもずらせないのだと、恵流は親切心から教えた。けれど陽は試みずにはいられないのだと答えた。 「それじゃあ太陽が可哀想なので、陽は自分にある乏しい光をかき集めて陽を照らしてあげると決めているのですよ」 陽は最後にニッコリ笑って跳ねるような足取りで立ち去った。 「素直な性格をしてるよね」 「わたくしは恵流様の方に軍配があがると思いますけれど」 「遠慮がなくなってきたね。君も相当に率直な性分をしてるよ」 そう返す恵流に気を害した様子はない。罵詈雑言をぶつけられる事には慣れている。イリスの皮肉は可愛いものだし、何より紛うことなき真実なので恵流にも文句はない。 恵流は「さて」とイリスを一瞥すると――。 「もう少しぶらぶらしたら切り上げようか」 ――無邪気に微笑みかけた。 これにイリスは拍子抜けしてしまう。恵流の口から発せられた言葉は予想していたものとは正反対の内容だったからだ。 「わたくしを誘っていただけたのは、てっきり何方かの嘘を看破する為の手段だと解釈していたのですけれど……」 「失礼だなぁ。僕は普通にデートに誘っただけだよ。君の好感度を稼いでおこうと思って」 「ふふ。恵流様が下心もなくわたくしに時間を割く道理がないでしょう? わたくしに求める事があるのでしたら、なんなりと申し上げて下さい」 ――自分の心身は貴方のモノなのだから。 全てを理解した上で、それでも両手を結んで顔を綻ばせるイリスに恵流は面食らう。何ともやりづらい。恵流にとって、この少女はいつだってそうだった。 「それが理不尽な命令だったら、君も愛想が尽きるんじゃないかな」 「嫌な事を迫られるのは勿論嫌です。それが明らかに間違っている事でしたら、詳細をお聞きしてから判断しますし、場合によっては窘めます」 話が違うじゃないかと恵流は苦笑を禁じ得ない。物だと言うなら、持ち主の意志に従うべきだろう。 「わがままだなぁ」 「王女ですから」 それは菖蒲の蔵書から得た知識だろうか。イリスも大分こちらの世界に馴染んできたらしい。
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