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その放送を、恵流は自室で聞き届けた。
堪え性のない諸君の一員である恵流は先程まで閲覧していたページを閉じて端末用のアプリが設定している公式ホームページから手早く特設サイトにアクセスする。
突貫工事とは思えないほど彩りよく整理されたサイトの道順に沿って一通り目を通して、呟く。
「これを僕への当てつけと考えるのは自惚れすぎかなぁ」
団体戦は恵流の不得手とする所だ。より正しく表現するなら、団体が恵流の扱いに困るわけだが――何にせよ、恵流にはこの企画に参加する理由が出来てしまった。
真の終わり。それは恐らく、恵流が探さなければならない残り四つの真実の一つなのだろう。
「まずは菖蒲を確保して、それから……」
思考を進めながら菖蒲にメッセージを送る。フラグナが閉鎖されて以来、恵流と菖蒲が共有する時間は目に見えて減っていた。
とは言え、四日前の隔週のイベントでは日常会話こそ行ってはいなかったが協力関係は健在。恵流の要請に応じない不義理を働く事はないだろう。
恵流の"信頼"に応えるように、菖蒲からの返信は直ぐに来た。
『俺の部屋に来てくれ』
◇ ◇ ◇
菖蒲が暮らす部屋は恵流と同じ青龍寮Aの三階の角にある。キッチンに風呂トイレ完備と菖蒲の方が内装のグレードが高い。
内部から手動でロックが解除されて、レバーハンドルが回る。翡翠の瞳が恵流を捉える。扉の奥から姿を見せたのは、菖蒲ではなかった。
「ごきげんよう、恵流様。どうぞ、部屋の中へ」
イリスだ。菖蒲は最近の放課後の時間は専ら彼女と一緒にいる事が多い。消息筋の間では深い仲を疑われている事を当人たちは知らない。
恵流は「お邪魔します」と言って淡々とイリスの横を通り過ぎた。恵流の背後でイリスは胸に手をあてて微笑を曇らせる。
「のえる」
血の色を灯した双眸が鋭く恵流を射抜く。
「まぁ、そんな恰好していたらおいそれと外出なんて出来ないよね」
菖蒲の部屋には容姿端麗な少女がもう一人控えていた。その容貌はイリスにも負けず劣らず、非の打ちどころがない。
――誰あろう、菖蒲だった。菖蒲は故あって男装で学園に通っている。
菖蒲は手入れの行き届いた栗色に艶めく髪をシュシュを使って高い位置で一つに束ねて、ワイシャツと臙脂のプリーツスカートの組み合わせと言う完全に女性としての姿で恵流を迎えていた。
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