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菖蒲はくりりとした瞳をぎろりと細めて好意的とは程遠い視線を恵流に浴びせている。
「"私"の言いたい事、解るよね?」
「そうだね。さくさくと来週の『大掃討戦』について方針を決めようか」
「しらばっくれないで。私、怒ってるんだよ?」
腰に片手を当てて見下ろすように恵流と相対する菖蒲の威容はここにはいない知り合いの姿を恵流に彷彿させた。
この辺りは従妹なんだなぁと他人事感覚で感想を抱きながら、恵流は無邪気な笑顔を浮かべる。
「見れば解るよ。だったら、僕の言いたい事も理解して欲しいかなぁ……その件に触れるのは徒労だって忠告しておくね」
恵流とて好き好んで物事を荒げる趣味は――ある。大好きと言っても良い。けれど、菖蒲との関係に多大な影響を及ぼすような規模になれば例外だ。
菖蒲は、恵流がこの学園で生き抜く上で欠かせない武器なのだから。今回の大掃討戦の相談においても、菖蒲の力が必要だと恵流は判断しているからこそ、ある種の均衡を破ってこの場に参じている。
「どうしてイリスに冷たい態度を取るの?」
降って湧いた追及の機会を逃すつもりは毛頭ない。恵流にしては親切な忠告を無視して菖蒲が口火を切る。
「あ、菖蒲! その事でしたら、わたくしは気にしていません! 恵流様にも思う所があるのでしょうし、お二人が険悪になる事は……」
イリスが二人の間に割って入って菖蒲を諫めるが――。
「これは私の気持ちの問題だよ。出汁にするみたいになって、ごめんね」
菖蒲はイリスの身体を優しく退けて、恵流を睨む。
二人の共有する時間が減ったのは、フラグナが閉鎖された事が直接の原因ではないと菖蒲は確信している。
これまでは食事の時間だって一緒に過ごしてきたのだ。それがなくなった本当の切っ掛けは、本人がいる手前で口には出せないが『イリスの編入』だろう。
「今の今まで、のらりくらりと一方的に避けられてきたんだ。理由の一つも説明がなければ、大掃討戦の話なんて絶対にしないから」
「やっぱり菖蒲はバカだなぁ。それが君の気持ちに由来するなら、僕も僕の気持ちに従ってるだけだよ。平行線まっしぐらだよ?」
「説明になってない。悪あがきしないでよ。どうして、あからさまにイリスを蔑ろにしてるの?」
「むしろ僕は他人を蔑ろにするのがデフォルトなので?」
「気付いてないのか、わざとなのか知らないけど、あからさまって言ったよね? 過剰だよ」
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