二章:ミックスデンジャー

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  二日ばかり太陽が上り下りをして、あと三回も眠れば大掃討戦が開催される所にまで迫った。本日水曜日の午後五時が大掃討戦エントリーの期限となっている。 執行部陣営は全メンバーの承認を得て如才なく受付を済ませると、客分を含む団体で『第四設定世界:廻星≪カイセイ≫のアリス』にログインしていた。 名目は大掃討戦に備えた協同練習だ。この設定世界を攻略した事がカギとなって開催されるイベントだけあって、特設サイトで告知されている大掃討戦のルールは『廻星のアリス』でお馴染みの模擬戦やギルド戦にちなんだ内容になっている。 廻星のアリスのコロシアムという施設にはそれらを練習できる機能が実装されている。何をするにも既存のシステムを活用しない手はない。 と言う事で、目下仮想の都心フィールドは数多の怒号と刃が行き交う戦場と化していた。 「こちらレッグ! 座標B-2付近にて斥候と見られる部隊に遭遇! 数は三! ランカーは確認されず。応援は不要、応戦する」 全員が装着している耳元のインカムからは仲間達のノイズ混じりの殺伐とした声が絶えず流れている。 「ブレイン了解。戦況は如何問わず逐一報告されたし。こちらブレイン。アーム、拠点Cの制圧にはまだ掛かりそうか?」 「わりぃ、大将。お嬢が盛大に噛みやがった。そこにすまし顔と腐れイケメンがここぞとばかりに現れて絶賛苦戦中だぜ。やっぱFF≪フレンドリーファイヤ≫があるとお嬢の高火力の運用にはちとメンドクセェな。発動前に退避しなきゃなんねぇから失敗したらやり直しじゃ済まねぇ」 「ごめぇぇぇええええええええん!」 艶の涙声に対して、剣戟音や爆発音などの穏やかではない効果音を背景にするには似つかわしくない優しい赦免の声が聴覚に殺到する。 「愚痴も謝罪も後にして目の前に戦いに集中してくれ。霧羽と鶴来を相手にこれ以上付け入る隙を与えるな」 「あいよ。まぁいっちょ気張ってみるわ。おめぇもいつまでも騒いでんじゃねぇよ」 「わ、解ってる。次こそはみんなの期待に答えて見せるわ!」 そんな熱心な練習風景を、指揮の為に最前線のやや後方に位置を取る不登の更に後方――最後方の本陣から、恵流は一歩も動かずに”眺めて”いた。
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