二章:ミックスデンジャー

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二章:ミックスデンジャー

  -----回想----- 振り返れば、恵流の過去には菖蒲の姿が多く登場している。それもそうだ。恵流が恵流を認識した初期の頃からその周りには決まって菖蒲がいた。 二人の出会いは広義の意味では偶然になるだろうが、およそ作為と呼ばれる類になるだろう。 画策したのは学園長――龍鳳院七海≪リュウホウイン ナナミ≫。自己を知覚したばかりで右と左ぐらいしか解らない恵流を呼び出して”例の契約”を交わした後のこと。 「君がこの学園で暮らしていくにあたり、一人紹介したい生徒がいる」 その言葉と控えめなノックが響いたのは狙いすましたかのようだった。 学園長の招きで扉の奥から現れたのは、中性的な顔立ちの男子生徒だ。恵流が無感情に観察を始めると、その男子生徒は勢いよく顔を逸らす。 「訳あってこのような恰好をしているが、この子『鶴来菖蒲』は――」 男子生徒の隣で学園長が鍵盤を弾くように軽やかに右手の指を動かすと、男子生徒の身体から光の粒子が放出されて隠されていた真実が暴かれる。 ふわり、と。口に含めば甘そうな、艶やかな栗色の髪が揺れた。感情が目覚め切っていなかった当時の恵流でもこれには驚きが表情に出た。 「――見ての通り、正真正銘見目麗しい女性だ」 身を包む制服はそのままだが、身体には男性とは異なる起伏が露わになっている。 「彼女は今の君に欠けている一般常識を補ってくれる筈だ。その代わりに、君には彼女が普通の暮らしを送れるようにサポートをしてやって欲しい」 このタイミングでなければ、恵流と菖蒲の関係は今日日まで続かなかっただろうと恵流は分析している。 恵流には適応力があった。そして、良識と呼ばれる知識は元々恵流の中に存在していて、その在り処を忘れてしまっていただけなのだから。 学園長が其処まで見抜いていたのかは定かではない。だが、やはり二人の出会いには作為が働いていて、だからこそ必然であったのだろう。 「よ、宜しくお願いします。平≪タイラ≫くん?」 平野恵流にとって、鶴来菖蒲は誰よりも異常で――誰よりも”普通”の人間だった。 -----回帰-----
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