第四章 ⑥

3/3
755人が本棚に入れています
本棚に追加
/127ページ
「君はさみしかったんだ――ご両親に理解して欲しかったんだ」 「つらかったよね」 「悲しかったよね」 「心が引き裂かれそうだったよね」 「わかるよ」 「俺も霊能力を持っているから」 「我慢しなくていいよ」 「でもね、桜子さん」 「ご両親を責めるのはもうやめよう」 「この世では、霊的なものが見えないのがルールなんだから」 「霊的に何も見えない世界で、よりよい人生を生きようとするところに、神仏の願いがあるんだよ」 「ご両親は君を愛していたんだよ」 「白子も」 「クラスメイトたちも」 「君は決してさみしくなかったんだよ」 「いままでも、これからも」 「君はさみしくなんか、ない」 「けれど」 「そのさみしい気持ちも、きみの大切な心の一部」 「どうしてもさみしくて」 「泣きたくなったときには」 「いつでも泣かせてあげる」 「だから」 「戻っておいで」 「君は――二条桜子」 「世界で、宇宙で、たったひとりのかけがえのない存在」 「君は、二条桜子――」  長い夢だった。  長いトンネルだった。  でも――終わらないトンネルはない。  明けない夜はない。  夜明け前がいちばん夜の闇が、深かっただけ――  桜子はゆっくりと目を開けた――
/127ページ

最初のコメントを投稿しよう!