第四章 ⑥

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 黒い霞に包まれ、般若と化した桜子が真備に襲いかかった。  鈎爪の生えた大きな手でひっかき、牙の生えた口で真備の首にかみつく―― 『!?』  般若の鬼がその手応えのなさに肩すかしを食らった。 「心の在り方を、普通の人間のレベルから遊離させたから、もう俺に襲いかかることはおろか、触ることもできない」  真備の声がどこまで届いているか。  だが、届かせなければいけない。 「無意識のうちに霊能力を成長させ、無意識のうちに生霊と化し、無意識のうちに大蛇の霊の呼び寄せ、無意識のうちに般若の鬼と化して姉弟子を襲った」  悔しげにうめきながら、桜子は熊のように両手を振り回すが、真備の身体を通過していくだけだった。 「このままでは君はその姿の通り、般若の鬼となって肉体に金輪際戻れず、死を迎えて怨霊となってしまう」  その間も、桜子は真備の身体を襲い続けている。 「無意識のうちに君がしたことのすべて、そのほんとうの原因は君の気づいていない無意識の叫びにある」  暴れまくる般若の鬼をまえに、真備は立ち上がり、抱きしめた。  法力で抱きすくめられた桜子が、苦しげに身をよじる。  眼をきつく閉じ、真備の法力から逃げようともがき続けていた。
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