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「御子神ゆかり。仕事中は姉弟子ではなく、ちゃんと名前で呼びなさいと言ったわよね、小笠原くん」
「すみません、御子神さん」
「面談っていうのは、嘘ね」
「いっ」
「真備くん、平日なのに調伏していたでしょ」
ゆかりが真備を下の名前で呼ぶときは、陰陽師として接するときだ。
だったら、こちらも同じ陰陽師同士、「姉弟子」と呼ばなければいけない。
「どうして分かったのですか、姉弟子」
「卦を立てたからよ」
「……姉弟子、営業途中に卦を立てたのですか」
「今日は保全回り一件だけだったから。三鷹の大崎さんの所」
「で、どうしたのですか。何度も電話いただいたみたいですけど」
「それより、私の電話に出ないほどの調伏なんて、大丈夫だったの」
「調伏自体は簡単でしたけど、そのあとのアフターフォローというか」
停めてあった自転車の鍵を外す。鞄を自転車の前カゴに入れて、さきほどのおじいさんの件を話す。
電話の向こうでゆかりが大きくため息をついた。
「邪霊と半ば融合して怨霊化した不成仏霊相手に、邪霊部分だけを調伏して不成仏霊にはきちんと成仏の引導を渡すなんて、相変わらず無茶苦茶ね」
「そうしないとおじいさんがかわいそうじゃないですか」
「普通ならそこまで行ってしまった不成仏霊はまとめて調伏するものよ」
「はあ」
「私ならそうするわ。いえ、そうしかできない。まったく。自分がどれだけ規格外の陰陽師か分かってるのかしら」
真備としては「はあ」としか応えようがない。
ゆかりが吹き出した。
「まあいいわ。で、本題。十八時からのミーティング、忘れてないわよね。調伏はじめるとその辺ぶっ飛ぶから、ワーニングで電話したんだけど」
「……すっかり忘れていました」
「遅刻したら、前橋マネージャー、切れるわよ」
腕時計を見る。ここから国分寺駅まで自転車で走り、電車で三越前まで移動して日本橋のオフィスに戻るには、微妙に間に合わないかもしれない。
「がんばります」
「間に合うかしら」
「……ちょっとだけ遅れるかもしれません」
ゆかりのため息が聞こえた。
「うまいこと時間を稼いでみるけど、期待しないでね」
真備はスマートフォンをしまい、大急ぎで自転車にまたがった。
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