その奇妙な店は…

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 私の脳裏に浮かんだのは、妻の白い右手だった。  妻の手を放すまいと、しっかり握ったその刹那、手首の肉がズルリとむけ、白く光る骨が剥き出しになる。そして腐肉の間からわらわらと這い出すウジが私の腕まで這い上がってきて、そして――  なぜ今更こんな妄想を。私は頭を振ってその光景を振り払おうとした。  私はこの通り、ちゃんと妻を取り戻したのに。  ほら、その証拠に、妻はちゃんと元気にそこに座っているではないか!  私の目の前では、最愛の妻がいつもと変わらず、にっこりとほほ笑んでいる。  私は唐揚げに群がるハエを追い払った。  夏だからか、今日は妙にハエが多い。やはり生ごみを捨てていないのが原因だろうか。換気もこまめにすべきかもしれない。  私はコーヒーを淹れた。コーヒーの強い香りは、すべてを誤魔化せる。 (私も、コーヒーが好き)  早織が囁く。  私は早織の分のコーヒーも淹れてやり、2人でそれを飲みほす。  闇に沈んでいく街角。  あの喫茶店は、今もどこか別の知らない町で営業を続けているのだろうか?  遠くでカラスが夕暮れを告げる声が、何度も何度も路地裏に響いていた。  
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