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電子画面の板上
まさか、こんな世界があるとは。
厚み僅か三センチ。
温度もなければ視線も交わらない液晶の中で、肌という肌に汗を滴らせた黒髪の男が、絶望に瞳を見開き悲痛な声をあげる。
「あやと……! ふざけんな……あやと! あやとおっ! ……っ、置いていくな。お前っ、オレの最期まで側にいるって言っただろうがよ!」
あやと、と呼ばれた白髪の青年は、泣き叫ぶ黒の青年が抱きかかえ揺さぶるも、瞼ひとつ動かさない。
黒の青年は照らすスポットライトに涙を光らせ、その魂を引き留めようと必死に叫ぶ。
「おまえ……っ、『山神』としての最期を見届ける『役目』があるっ、て……! なのになんで、なんで先に終わろうとしてんだよ! 順番がちがうだろっ!」
切り裂く声は力強くもかすれていて、その悲壮な呼びかけに、知らずと涙が浮かんでくる。
心が揺さぶられる。
彼の、彼らの一挙一動に魅了され、目が離せない。
――ああ、『あやばみ』だ。
理屈ではなく衝動的に、理解した。
紙の上にしか存在しなかったキャラクターが、物語が。
スポットライトと音楽に彩られた舞台の上で、鮮明に命付いている。
「これが……2.5次元舞台」
外に出るのも億劫な、うだる暑さの続く中学二年の夏。
如月このめはこの日、温度のない舞台映像に、心を奪われた。
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