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(これは啓が言ってたみたいに、トイレまで追いかける覚悟を決めないとなんじゃあ……)
偶々目が合ったからという理由で教師に頼まれたノートを運びながら、このめは神妙な面持ちで思考を巡らせていた。
あまりにも思い詰めた顔をしていたのか、ノートを受け取った教師が「悩み事は溜め込むなよ」と引き出しから飴玉を一つくれた。
あとで食べよう。
そんな思考で自身の情けなさを逃しながら、幼馴染が待っているであろう教室へと重い足を向ける。
(……また啓に"諦めろ"って言われそうだな)
吹夜は昔から、このめがいくら空回っていようと、自ら「やめる」と言い出すまで付き合ってくれる。
面倒見がいいのだ。昔から。
しっかり小言は言われるけども、絶対にこのめを見捨てない。
そんな安心感ゆえに、今回も振り回しているのだが……本当は、このめだって薄々気づいている。
そもそもあまり周知されていない部を、なんの人脈もなく闇雲に立ち上げるなど、初めから無謀だったんだ――と。
(……でも、まだやれることを全部やり切るまでは、諦めたくないし)
胸中の葛藤に重い息を吐きだしながら、このめはなんとなしに窓外へと視線を流した。
瞬間、視界の端に甘い桃色が過った。
――まさか。
駆け寄った窓にへばりつき、目を凝らす。と、美術棟の一階横から本校舎の影に消えゆく、一人の生徒を見つけた。
間違いない。あれは――紅咲だ。
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