部員になってください!

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(っ、チャンス!)  紅咲が一人でいるなんて珍しい。というか、初めて見た。  踵を返し、即座に階段を駆け下りたこのめは、もてる全力を尽くして美術棟へと急いだ。 (きっと今を逃したら、もう二度と――)  この時のこのめはとにかく目の前の機会を逃すもんかと必死で、別の可能性になど微塵も思考がめぐらなかった。  別件で離れていた定霜と、あの先で落ち合う約束をしているのかもしれない――という、何よりも現実的な可能性。 (――いたっ!)  美術棟と本校舎との間には、数種の花が咲く中庭がある。その小道の影に隠れるようにして、淡い桃色の後頭部が見えた。  このめは走りながらすうっと大きく息を吸い込み、 「――紅咲さんっ!」  ビクリ、と肩を跳ね上げた紅咲が振り返る。  驚愕に見開かれた桜色の瞳が、このめの姿を捉えて小さく揺れた。 「……あ」 「急にゴメン! 俺! 隣のクラスの如月このめ!」 (――まにあった)  その側まで駆け寄り立ち止まると、安堵と疲労が一気に襲ってきた。  このめは自身の両膝に手をつき、鼻と口で必死に酸素を取り込みながらも、紅咲をグッと見上げて、 「お芝居に! 興味ありませんかっ!?」  言った。とうとう言えた。  胸中に達成感が溢れ、頬が緩んだのは僅か数秒。 「アアッ!?」  後方から飛んできたドスの聞いた声に、このめは飛び上がりながら振り返った。  結び目を下げたネクタイに、開かれた襟元。ワイシャツの裾はベルトを隠し、袖はブレザーごと肘下まで捲りあげられている。  ――定霜だ。
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