部員になってください!

12/23
前へ
/283ページ
次へ
(ヤバい)  定霜は頬を引きつらせたこのめを「ア! テメエ!」と指さし、直線的な眉を吊り上げた。 「そのツラ覚えてっぞ! 毎日毎日性懲りもなく凛詠サンを追いかけ回すストーカーヤロッ」 「ごめん紅咲さん! 走って!」 「え? ちょっと!」  反射だった。  定霜が言い終える前に、このめは紅咲の手首を掴んで本校舎へと駆け出した。  突如の事態に呆気にとられていたのか、「ッざっけんな止まれコラアッ!」という怒号が、数秒の間を置いてから届いてくる。  けれど足は止めない。  ここで定霜に捕まってしまえば、二度と紅咲と話す機会はないだろう。  紅咲が手を振り払わず共に駆けてくれていることが、何よりも有難かった。 「ごめん! 紅咲さん! 話ししたくて逃げちゃったけど、約束してた感じだよね!?」 「っ、そういうワケじゃ、ないけど」  歯切れの悪い返答に、このめは胸中で首をかしげたが、今はそれどころじゃないかと前を向く。  まずは逃げ切り、二人で話ができる安全な場所を確保するのが先決だ。  校舎の柱をいくつも曲がって、辿り着いたのは食堂の裏手。  その扉の影に、このめは紅咲と共に身を隠す。  荒い呼吸を肩で繰り返しながら、そっと顔だけを覗かせて様子を伺ってみた。  定霜の姿はおろか、声も聞こえてこない。
/283ページ

最初のコメントを投稿しよう!

6人が本棚に入れています
本棚に追加