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(ヤバい)
定霜は頬を引きつらせたこのめを「ア! テメエ!」と指さし、直線的な眉を吊り上げた。
「そのツラ覚えてっぞ! 毎日毎日性懲りもなく凛詠サンを追いかけ回すストーカーヤロッ」
「ごめん紅咲さん! 走って!」
「え? ちょっと!」
反射だった。
定霜が言い終える前に、このめは紅咲の手首を掴んで本校舎へと駆け出した。
突如の事態に呆気にとられていたのか、「ッざっけんな止まれコラアッ!」という怒号が、数秒の間を置いてから届いてくる。
けれど足は止めない。
ここで定霜に捕まってしまえば、二度と紅咲と話す機会はないだろう。
紅咲が手を振り払わず共に駆けてくれていることが、何よりも有難かった。
「ごめん! 紅咲さん! 話ししたくて逃げちゃったけど、約束してた感じだよね!?」
「っ、そういうワケじゃ、ないけど」
歯切れの悪い返答に、このめは胸中で首をかしげたが、今はそれどころじゃないかと前を向く。
まずは逃げ切り、二人で話ができる安全な場所を確保するのが先決だ。
校舎の柱をいくつも曲がって、辿り着いたのは食堂の裏手。
その扉の影に、このめは紅咲と共に身を隠す。
荒い呼吸を肩で繰り返しながら、そっと顔だけを覗かせて様子を伺ってみた。
定霜の姿はおろか、声も聞こえてこない。
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