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(――逃げ切った)
これでやっと、話しの続きが出来る。
安堵にほっと息をついたこのめは、隣で壁に手をつき呼吸を繰り返す紅咲を見遣って、「ほんと、ゴメン」と重ねた。
「ずっと、ちゃんと話しがしたくって。けど、定霜くんに、なかなか取り次いでもらえなくってさ」
「……、さっきの、芝居ってやつ?」
「うん、そ――」
首肯しようとして、このめはぴたりと固まった。
紅咲の肩越しに、ゆらりと近づいてくる一人の影。
「っ、定霜、くん」
目のあった定霜はにいっと口角を釣り上げ、右の拳を反対側の掌に押し付けながらグルリと首を回した。
「凛詠サン連れて俺から逃げようだなんて、随分と挑戦的だなあ? 男なら男らしく、逃げねえで正面から挑んで来いよ」
「っ、俺はただっ、紅咲さんと話がしたかっただけで……!」
「アア? 凛詠サンがお話になる相手は、凛詠サンが決めんだよ。テメエらザコに選択肢なんざ存在しねえ!」
(そんな無茶苦茶な……!)
思ったが、一歩一歩距離を縮めてくる鋭い瞳に気圧され、声にはならない。このめは恐怖に震えながら、硬い壁に背を押し付けた。
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