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ヤバイ。どうしよう。
どうしたらわかってもらえるんだろう。
浮かんでは消えゆく焦燥を繰り返している間に、定霜はすっかり目の前だ。獲物を捉えた捕食者のように、獰猛な笑みを浮かべ、見下ろしてくる。
「手間かけさせやがって。二度と凛詠サンを連れ回そうだなんて思わないよう、しっかりお灸を据えねえとなあ? ……歯ア食いしばれ!」
「っ!」
振り上げられた拳に、このめは本能で先を悟りギュウッと目を閉じた。
(――終わった)
ゴッ、という鈍い骨の音が鼓膜に届く。
だがその音は、このめのモノではなかった。むしろ、予想していた衝撃も――。
「あ、あれ?」
こわごわと薄目を開けてみると、このめの視界はネイビーのチェック柄に覆われていた。
それが制服の布だと認識出来たのと、このめの隣から聞き慣れない声が発せられたのは、ほぼ同時。
「ちょっと落ち付きなよ、迅」
紅咲だ。目の前の布の正体は、振り上げられた紅咲の左足だった。
このめへと向かっていた定霜の右腕をせき止め、守ってくれている。
定霜はサッと青ざめたかと思うと、急いで右腕を跳ね退けた。
「凛詠サン!? 大丈夫っスか!?」
「別にこれくらい、なんとも」
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