部員になってください!

15/23
前へ
/283ページ
次へ
 常よりもやや低い落ち着いた声と共に、このめの視界が明るくなる。  このめは信じられない思いで、隣の紅咲を見遣った。  紅咲凛詠といえば実に控えめな性格で、時折見られる柔和な微笑みは、まるで桜舞う春を漂わせるようだ――と、誰もが恍惚(こうこつ)と口を揃え称賛する。  それが、どうだ。  たった今、紅咲は軽々と左足を振り上げ、定霜の腕を防いだ。  さらには目を見張るこのめを見上げて、ふっと目元を緩める。  桜舞う春の微笑みなどではない。  脅しの気配を含んだ、黒さを滲ませる笑みだ。 「紅咲、さん……?」 「僕さ、別にか弱くもなんともなくって、ただ学生生活を円滑に進める為に"ああ"してるだけなんだよね。わかる? で、この事を他に言いふらそうもんなら、今度この脚が向くのはアンタ――」 「っ、紅咲さん!」  このめはただ湧き上がる興奮のまま、紅咲の両手を勢いよく握り込めた。  少し低い位置にある桜色の瞳が、限界まで見開かれる。 「やっぱり"沙羅"は! あなたしかいません!!」  この時、紅咲と定霜が何を思ったのかはわからないが、感激の眼を向けるこのめに対し、ただ、唖然としている事だけはわかった。
/283ページ

最初のコメントを投稿しよう!

6人が本棚に入れています
本棚に追加